三月も末だと言うのに冷たい雨が降っている。
坂を上り、大使館のすぐ隣のビルへ。入った瞬間のタバコの匂い。お粗末な壁の修理。旧式のトイレ。帝国データバンクの社員であれば、50点以上の評点は付けないだろう。
試験時間5分程前に面接会場に通され、待つ。15分待った頃に、試験監督二人現れる。
一人は営業の偉い人。魅力的な悪人顔をしている。もう一人は分析官。分析官は一次試験の時に面接をした方だった。
二人に何度も来て頂いてすみません、と言われる。しかしそんな事を言われても困る。こちらは好きで来ている。
研究内容と志望動機を聞かれる。この質問は三回目だ。
一通り喋り終えると、営業が私の喋り方に対する評価をする。
「アレコレこうで、こういう喋り方だね。ところで、ふだんどんな感じで友達と喋っているの?」
普段の喋り方?言われてみれば、意外と知らない。
その後は営業の営業話に終始した。彼はパワーのある、引きつけられる喋り方だった。製鐵会社の最適化システムを褒めちぎっていた。
分析官は暇を持て余しているようだった。私は隙を見て営業に質問した。すると、逆質問が帰って来た。
「つまり、問題は在庫管理なのですか?」
「そうじゃないんだ。どう思う?」
左手の窓に目を移して10秒くらい考えた。最初の5秒は、人は考える時、対象から目をそらすんだな、という事を考えていた。
私が「最後の質問」をし、営業がそれについて喋り倒し、そのうち脱線して目的を見失ない、分析官が助け舟を出し、「そうだったねうわっはっは」といったところで試験は終了となった。エレベーターまで案内され、中に入り、どうもありがとうございました、といって頭を下げる。エレベーターの扉が閉まるまで、頭を上げてはいけない。
扉が閉まり、頭を上げる。のど飴をなめながら帰る。