ロマンとイノセンス
参考:ロマン主義
ロマン主義の起源は、古典主義や教条主義の否定に遡る。一般、公、規則、システムよりも、個を重視したいという思いがロマン主義の始まりだった。自分はロマン主義の本質は「現状否定」にあると考える。その起源においても、古典、教条に縛られる「現状」を「否定」している働きを見る事が出来る。
しかし、ロマン主義的否定は決して叶えられてはならないものだ。ロマン主義はあくまで個人的なものであり、その否定が完成して公的になった対象は、もはやロマン主義の対象にはなり得ない。
以上から、ロマン主義を、「不可能な事柄の不可能性を知った上で投企する態度」と考える(村上春樹「海辺のカフカ」より)。叶えられることのない現状否定こそロマン主義だ。その性質から、ロマン主義は必ず悲劇を孕む。
村上龍「限りなく透明に近いブルー」における「リュウの都市」は想像の世界(想像界)であり、その幻想は飛行機のジェット=現実の世界(象徴界)に破壊される。リュウの都市は現実を積極的に否定してはいないが、個人的なものが現実に破壊される場面はまさにロマン主義的と言える。
作中に何度かリュウの「子供のようなまなざし」が言及されている。ここから、「リュウの都市」がイノセンスを象徴していると考えられる。とすれば、
「リュウの都市」=想像の世界=イノセンス=ロマン主義の対象
このことは、イノセンスの不可能性を示している。