村上隆 「芸術起業論」
村上隆さんはとてもしたたかな人だ、とぼんやりと思っていた。しかしそれは、こっぱずかしいとも言える人生上の問題から–––おれって何なんだろう、とくよくよ悩む中高生のような、沢山の人が素通りしてしまうようなものがエンジンとなっている。
自分も薄々気付いておきながら素通りしそうになっていたが、理念というのは、ある種のひとびと、コーヒーを好んだり、本を横向きに積み上げる癖があったり、自分の悩みと宇宙の大きさを比べておれはなんとちっぽけなんだと考えた次の瞬間に俺は自分を騙してはいないか?と疑うようなひとびとには大事なのだと思う。
理念の設定に正誤は無い。あくまで立場の問題だ。人参は食べるがピーマンは拒否する、というのと変わらない。
なので理念設定は自分の欲望に従うのが自然だ。しかしそれは易々と見えるものでは無い。村上隆は自分を追い込むことで理念が根源的な欲求と繋がっているか何度も確認している。
その根源的な欲望を達成する為には何だってやれよ、ということだ。
この本を読んで、村上春樹のねじまき鳥クロニクルの戦時中に井戸に放り投げられた男を思い出した。